♯ジェリービーンズの音 003

晴れているのをいいことにお気に入りの赤いTシャツを引っぱりだす
履き始めて4年になる破けたジーンズとおととい買ったばかりの白いスニーカー
きれいに磨いて新しいステッカーを貼ったビーチクルーザー
心なしかデッドベアが笑ってる
ポッケにはジェリービーンズとラッキーストライク、百円玉も2つ持った


Tシャツ1枚じゃさすがに寒い
ドアを開けたところで引き返し、上着を取りに部屋に戻る
携帯を忘れていることに気付いたけれど気付かないふりをした


サドルに跨り、目指すは空の近く
風を切って走ると、今日の空みたいに気持ちが晴れる
朝のけんかが嘘のよう
浴びせられる言葉に耳を澄ましていたけれど聞こえないふりをした


坂道をのぼり、カーブを下る
その向こうをまたのぼって、角を曲がればお気に入りのあの場所だ
角を曲がる前に自動販売機でコーヒーを1本
空いている方のポッケに缶コーヒーを押し込んだ


ハンドルを握りなおし、角を曲がる
ここまであたしを運んでくれたクルーザーをほったらかしてしばらく歩いた
煙草を吸いながら適当な場所をみつけて寝ころぶ
暖かくなるのはまだまだ先だ
まだ空気が冷たいや


おいしくない缶コーヒーを飲み干し、目をつぶる
耳を澄ませたりして風の音や葉っぱの音を聞く
気がつくと手に持っている煙草の火がフィルターに届いていた
自分で吸わずに風に吸われてしまっていた
少し笑ってジェリービーンズを口に放り、また目をつぶる


空に少しだけ近づけるこの場所がだいすきだ
目を開けると空は近くて青かった
青くて白くてまぶしくて切なかった


まるで残らず消えてしまったように雲がひとつもなかった