ホックをはずしたらそのままつるんとめくれて出てきたのが本当の私で

君は何も言わないし何も聞かないから僕も何も言わないし何も聞かない。
彼は捨てるようにそう言って電話を切った。
なにがなんだか理解できず、眠い目をこすりながら電話をかけた側のわたしは
すこし頬をふくらませながらまたベッドに戻り、そしていやな夢を見た。



次の朝、掃除機をかけながらあれこれ考えてメールを送った。
『起きたら連絡ちょうだい。』
あれこれ考えたわりには、結局そんな文章だった。
『起きてるけど話したくないから・・・。』
返信はすぐだった。
『話したくないのは解ったから、なんで怒ってるのか教えてよ。』
わたしがそう送ったきり、しばらく待ったけど返信はなかった。
電話をかけてみたけど思った通り、出ない。
むかつくからしばらく電話を鳴らし続けてあげた。
腹を立ててる理由くらい教えろバカ。
わたしは捨てるように独り言を言って掃除機のスイッチをオンにする。
嫌な女だなあ。なんて考えながら。



掃除を終わらせてボーっとしてたら地震があった。
わたしは虫と鼠と地震がきらいだ。あとはピーマンとビール。
ボーっとしてるのはいつもの事だけれど、地震はいつもの事ではないので
すぐにでも逃げ出したいと思った。見えないものっていうのは怖い。
けれど、どうしたらいいのか、どこに逃げたらいいのかわからなくて
オロオロしているうちに揺れは治まっていた。
気持ちが悪いほど天気がよくて、気持ち悪いほど気持ちのいい午後だった。



揺れが治まった事に気をよくし、単純なわたしは何も考えず、いつものように
いつもの場所に座ってひなたぼっこをしながらいつものようにボーっとしていた。
いつのまにか眠っていて、気付くとおひさまはだいぶ元気がなくなっていた。
夕ご飯の用意をして、お風呂に入ってから食事をする。
自分で作ったものはおいしくない。1人で食べるのもおいしくない。
でも、いつも通り。いつもとなに一つだって違わない。



空のいちばんてっぺんに月が昇った頃にもう一度電話をかけてみた。
しばらく鳴らしてみたけれど、呼び出し音が冷たく聞こえるだけだった。
自分が怒られている理由を聞こうとして電話をかける。
なんて馬鹿げているんだろう。
そこで気付いて二度と電話しない事に決めた。もう二度と。


地震があった時、正直 彼に逢いたい。 って思ったけど
月は静かにそこにあるし、あと何時間かすれば朝がくる。いつもと変わらない。
いつもとすこし同じですこし違う日が始まるだけ。


地震が来たらまた1人でオロオロすればいい。
窓を開けなければ虫は入ってこないし、家には鼠はいない。
ペットショップに行かなければいい事だ。
いつもとすこし同じですこし違う毎日を今まで通り1人でやり過ごせばいい。
それだけのこと。ただそれだけのこと。