♯ジェリービーンズの音 001

煙草に火を点ける
窓から顔を出し煙を吐き出す
メンソールが刺激する
宙をみつめる、目的はない



指を丸め、手のひらを空に向けるとそこに一つの空間ができあがった
ジェリービーンズに手を伸ばし、口の中に放り込む
紫色のが好きだ。あとオレンジ色も。
味の違いがわからないけど昔っから紫とオレンジが好きだった。


その2種類しか口に運ばなかった。それ以外は自分以外の誰かにあげていた。
選んで口に運ぶ私を見て、友達はしょうがないなぁ。と困ったように笑うだけ。
何も言わず残ったジェーリービーンズを食べてくれた。
私が紫色とオレンジ色だけを食べられるように。



17の時はいつも持ち歩いていた。お気に入りのケースに入れて。
混雑する前のバスに間に合うため、電車を降りると毎朝ダッシュでバス停に向かった。
私は走るのが好きだ。
風を切って一歩進む毎にジェリービーンズが音をたてる。
足を地面に着ける度、規則性を持って。
存在を主張しているかのように。
あたかも走る私を煽るように。
もっと早く もっと もっと。
バス停との距離が一歩一歩縮まる毎に音が大きくなっている気さえした。


息をあげてバス停にたどり着いた私を見て大学生が笑っている。
毎日すれ違う2人組。
きっと、毎朝ダッシュしている私が可笑しいのだろう。
別に笑われたって何て事はない。タイプじゃないし。
そうやって人をバカにしてればいいさ。と卑屈になる自分が嫌いだ。


当時付き合っていた彼氏は 
走っているお前はかっこいいよ。
と言ってくれた。
嬉しかったけど、複雑だった。
今考えると笑えるけど。


なんの目的もなく、地元を離れたい為だけに必死で受験勉強をしたのだろう。
あくまでも憶測だけれど、毎朝彼らの顔を見るとそう思う。
彼らには意志が感じられない。




勝手な事を言っている私にも意志などというたいそうなモノはなかった。
ただ毎日を過ごしていた。やり過ごしていた。
今だって大した変化はない。時間が流れていくのを待っているだけだ。




バスに乗って息を整える。
15分程で目的のバス停に着く。
その15分間、窓の外を流れる景色を見てやり過ごす。
やり過ごして過ごす毎日だった。今だってそうだ。
毎日変わらない景色。信号が変わる。
空を見ると空の青が眩しかった。
雲がやけに白く見えた。