彼女と年下のおとこのこ

『あやさん、髪の毛おろしてた方がかわいいね。』

不意をつかれた彼女は思わず慌ててしまっていた。
アイスコーヒーでむせた彼女を見、からかうようないたずらっぽい顔で
恥ずかしげもなく涼しい顔でそう言うのは彼女より3つ年下の男の子。
彼に初めて会ったのは6月だというのに日が照って風のない、暑い暑い日だった。
と彼女は言う。


髪が首筋にまとわりついてどうしようもなく暑いので
彼女は長い髪を後ろでひとつにまとめていた。
外で窓を拭いている彼女の横を通り過ぎていった男の子が彼だったらしい。
こんにちはー。
これまた爽やかに挨拶して、高気温にも関わらず涼しげな顔をしていたという。
彼は仕事に使うのであろう大きな機材を担いでひょいひょいと身軽そうに動いていた。と。


彼女は懐かしそうに遠くの方を見ながら聞かせてくれた。


仕事で一緒になった彼と顔を合わせたのは一週間弱であったけれど
濃い一週間だったのを忘れられない。まるで高校最後の夏休みのような感覚だった。
男女の恋愛感情こそ生まれなかったけれど、わたしにとってはとても新鮮な人で
おおげさな様だけれど、全てが感動だった。


彼女は嬉しそうに話す。


彼の話すことから感じ取れる彼の考えていること。彼が感じること。
すこしだけ意地悪そうな、それでいて幼い瞳。
嬉しい時は本当に嬉しそうににんまりと笑う。
悲しい時は分かり易すぎるほど落胆していた。


素直で単純な、そして元気でとても分かり易い男の子だった。
生まれたまま、そのまますくすくと育ったんだろうなあ。と思ってしまうような男の子。


彼女は少し悲しそうな顔で
『…男の子』
そんな男の子のことなんて忘れてしまったわ。って、彼女は言った。にっこりと笑って。